会長ご挨拶

  2023年4月1日

 

   会長就任にあたって    

                                                                                               日本鉱業協会

                                                           会長 野崎 明

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   この度、会員各社のご推挙により、納会長の後を受けて、日本鉱業協会の会長に就任することとなりました住友金属鉱山の野崎でございます。どうぞよろしくお願いいたします。  

 当協会は、1948年に設立され、本年4月をもって76年目となります。この間、歴代会長、会員各社ならびに協会関係者のご尽力により、当業界の振興・発展を実現してこられましたことに改めて深く敬意を表したいと存じます。また、経済産業省をはじめ、関係省庁、地方自治体、ならびに労働団体などの皆様からのご支援に対しまして、改めて心より感謝申し上げます。

  納前会長は、安定的な金属資源確保こそが現在および将来の国益にかなうとの信念のもと、様々な施策にご尽力いただきました。

 中でも、鉱物資源の獲得競争が激化し、経済安全保障の視点からも資源確保の重要性が増していることを背景に、その支援強化を政府や関係機関に訴えました。2022年度(令和4)の第2次補正予算では、重要鉱物の資源権益確保において独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の出資が受けられ、サプライチェーンの強靭化に向けて民間企業がよりリスクを取りやすい体制が整えられました。

 また、高騰が続く電力に関しては、安全確認された原子力発電所の再稼働を含むベースロード電源の早期確保など、低廉で安定的な電力供給の確保に向けて強く要望されました。本年2月に発表された政府の「GX実現に向けた基本方針」の中で、徹底した省エネの推進、再エネの主力電源化などとともに、安全性の確保を大前提とした原子力の活用が明記されました。

 このような前会長のご努力に対しまして、深く感謝申し上げますとともに、私もこれまで推進されてきた基本路線を引き継ぎながら、課題解決に向けて精一杯努力をしてまいりたいと存じます。

 さて、新型コロナウイルスの「5類感染症」移行により、ウィズコロナからアフターコロナを迎えることで、我が国の社会経済活動は正常化が進み、上向いていくことを期待しております。カーボンニュートラルの達成、グリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向けた国内投資の活性化に繋がれば、様々な産業で必要とされる素材の国内需要増に繋がり、当業界の使命である非鉄金属素材の安定供給確保は、一層重要性を増していくものと考えられます。

 他方、長期化するロシアによるウクライナ侵攻や米中関係を中心とする地政学リスク、インフレやそれに対応する金融政策など、世界経済の先行きは引き続き不透明かつ混迷を極め、見通すことは非常に困難です。また、円安や資源ナショナリズムの高まりは海外鉱山の権益取得を困難なものとし、エネルギーコストの高騰は製造コストを圧迫するなど、当業界を取り巻く環境は厳しい状況が続いております。

 このような環境下にあって、当業界としては、非鉄金属素材の安定供給と循環型社会の構築を通じて、我が国の持続可能な発展に貢献するべく、以下に掲げる重要課題を中心に取り組んでまいりたいと考えております。

 

 第一の課題は「資源の安定確保」です。

 非鉄金属は、広く日本の産業全般にて、必要不可欠な素材として用いられており、国家レベルでのカーボンニュートラル実現に向けた競争が激化する中で需要増が見込まれる一方、有望な鉱床には限りがあります。加えて、チリ、インドネシア、フィリピンなどの資源国における課税強化や禁輸政策等の議論のような、資源ナショナリズムの今まで以上の高まりにより、鉱物資源の獲得競争は激化している状況にあります。これらのことから、当業界の使命である金属資源の安定確保、素材の安定供給は、その難しさと重要性を増してきていると認識しております。また、鉱山立地の深部化・奥地化による初期投資額の増大や、インフレ、円安により、新規鉱山開発・経営への参入は今まで以上に資金を要し、リスクテイクを強いられる事業となっています。

 こうした状況を踏まえ、当協会では、長期的な視点で積極的な海外資源開発が継続できるよう、引き続きJOGMEC、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)等の政府系機関の機能強化・拡充や、減耗控除制度・海外投資等損失準備金制度(海投損)の恒久化・拡充など、政府に対して一層の支援強化を訴えてまいりたいと考えております。とりわけ2023年度末に適用期限を迎える海投損については、その維持・拡充を強くお願いしたいと考えております。並行して、資源外交についても、政府と一体となって積極的に取り組んでまいりたいと考えております。 

 

 第二の課題は「電力問題」です。

 当業界では、非鉄金属という国際商品を扱っている以上、常に国際競争に晒されており、国際的に劣後しない価格水準での、安定的な、電力の確保が必要不可欠となっています。しかしながら、現状、我が国の電気料金は高止まりしており、電力多消費型産業である非鉄金属製錬にとって大きな負担となっており、リサイクル拠点でもある製錬所の国際競争力が削がれている状況にあります。当業界としては、引き続き省エネ活動を推進して参りますが、FIT(2022年度よりFIP)制度の減免措置の維持・拡充、安全性の確保を前提とした原子力の活用、地熱発電拡大のための規制緩和等の支援、再生可能エネルギー供給量の拡大への取組強化について今後とも政府に働きかけてまいります。

 当業界は、GXの着実な進展に寄与すべく取り組んでまいりますが、「GX実現に向けた基本方針」で掲げられた、成長志向型カーボンプライシング(CP)によるGX投資インセンティブの実施については、経営に対する影響が大きいことから、中長期的に予見可能性の高い形で具体化されるべきと考えております。

 

 第三の課題は「リサイクルによる持続的な循環型社会の構築」です。

 当業界は長年にわたる製錬技術の蓄積によって既存インフラを有効活用し、様々な産業で発生したスクラップのリサイクルを積極的に実施するとともに、産業廃棄物の無害化を行うことで、循環型社会の構築と環境負荷の低減に取り組んでまいりました。リサイクルは資源確保の方策の一つでもあり、今後は電動車が寿命を迎えていくことにより、リチウムイオンバッテリー(LiB)の廃棄量増加が見込まれます。当業界の技術や設備と製錬所間のネットワークの活用、さらには会員各社が取り組み続けているリサイクル原料の処理促進や技術開発の成果を実装していくことで、リサイクル原料の再資源化を通じたサーキュラーエコノミーへの貢献に繋げることができると考えております。そのためにも、リサイクルの拠点整備やネットワークづくりの支援、産業廃棄物の収集から処分に至るまでの、現行制度の実態に即した改善・整備などを引き続きお願いしてまいるとともに、昨年6月のバーゼル条約改定により規制対象となった、E-Wasteの取引円滑化など、国際的なリサイクル処理が促進されるよう取り組んでまいる所存です。

 また、2050年カーボンニュートラルの達成に向け、会員各社が策定したCO₂削減目標の実現を支援してまいるとともに、当協会内「カーボンニュートラル推進委員会」に設置した、「リサイクル」「省エネ」「LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)」をテーマとする研究会における検討を促進してまいりたいと考えております。

 

 第四の課題は「人材確保と育成の強化」です。

 カーボンニュートラルの観点からも高まっている非鉄金属素材へのニーズに対し、我が国における人口減少・少子化に加え、冶金・鉱山学部の改廃にともなう中堅教員層の減少、資源・製錬分野への学生の関心の低下により、産業を牽引する人材不足が顕在化しております。これらに対して、大学への寄付講座、共同研究/研究助成などを通じた産学の一層の連携の強化、経団連、経済広報センターが主催する「企業人派遣講座」への講師派遣、科学技術館での常設展示といったアウトリーチ活動等を通じて、引き続き若い世代への訴求を促進してまいる所存です。また、資源・素材学会を通じた研究費の助成についても、業界として引き続き積極的に取り組んでまいりたいと考えております。

 また、人口動態や教育の在り方への対応は個別企業や業界レベルでは限界がありますため、産学官連携による具体策のデザインと、国や関係機関による支援策の整備と拡充を引き続き要望してまいります。

 

 このほか、安全対策の推進、休廃止鉱山管理を含む環境・保安対策の充実など非常に重要な課題であり、引き続き適切に取り組んでまいります。

 

 これから1年間、会員各社のご理解とご協力をいただいて、これらの諸問題に全力をあげて取り組んでまいる所存ですので、関係各位のご指導とご支援を重ねてお願い申し上げて、私の就任のご挨拶とさせていただきます。

                                                                                                                          以上

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